山東人民ラジオ放送局経済チャンネルによる遠山総領事電話インタビュー
2015年8月10日
在青島日本国総領事館
先日、遠山総領事は山東経済ラジオ局による話インタビューを受け,30年にわたる職務経験と、日本と山東省の各分野における交流・協力関係の現状と将来の見通しなどについて話しました。内容は以下の通りです。
1.(問)貴総領事は,青島に赴任されて既に10ヶ月になるそうですが,この間のご自身の仕事について点数を付けるとしたら何点になりますか。
(答)青島に赴任してから既に10ヶ月が過ぎました。自ら採点すれば,70点ぐらいかと思います。かろうじて合格といったところかと思います。加点の部分は,この10ヶ月の間で既に2000人以上の方々と名刺交換をし,一部の人達とは,ショートメールあるいはウィチャットを通じて随時連絡が取れる関係にあります。外交官として,できるだけ多くの友人と交わり各方面の状況を理解すること,そして異なった意見にも耳を傾けることは,一種の楽しみであるとともに適切な判断をする上でも大変重要なことと考えます。もし,減点部分があるとすれば,山東省には全部で17の市がありますが,まだ6市を訪問したのみで,その他の市は訪問してません。
2.(問)1978年秋,貴総領事は外務省の研修生として,鄧小平副総理の訪日での接遇に関わったと承知しています。鄧小平先生は改革開放の総設計師と称されましたが,当時、日本は世界経済の中で既に重要な位置を占め、一人当たりのGDPは8000ドルを超えていました。こうした日本に対して鄧小平先生はどのような評価をしたのでしょうか。
(答)私は,1978年4月に外務省に入省し、その年の10月に日本政府の招待により鄧小平副総理が訪日されました。鄧副総理は,戦後,日本を訪問した最高レベルの中国の要人でした。
鄧副総理は8日間の訪日において,日本側要人との会見以外にも,新日鉄、松下電器、日産自動車など大きな企業も視察されました。新幹線に乗車して東京から京都に向かう車中,日本側の接伴員が新幹線に乗車した感想を聞きました。鄧副総理は,四川訛りで「本当に速い。何か後ろから追い立てられているような感覚だ。これこそ我々が今必要としているスピードだ。」と答えました。この一言は,正に鄧小平さんの日本に対する評価を述べたものと思っています。鄧副総理は帰国後,自ら先頭に立って,新日鉄の技術を導入して上海の宝山製鉄所を建設することを決定しました。一言補足しますと,当時、鄧氏が推進した改革・開放政策については、谷牧副総理が鄧氏の有力な片腕でした。同副総理にも何度かお目にかかったことがありましたが,30年後に同副総理の出身地である山東省に赴任できたことを嬉しく思います。
3(問)鄧小平氏の訪日は、中日政府間の大規模な経済協力のスタートとなりましたが,中日関係を語る時,鄧小平氏のどのような発言が印象に残っていますか。
(答)鄧小平氏は体こそ小柄でしたが,非常に存在感のある方でした。同時に時には大変ユーモアのある話をされました。例えば,ある日本側要人と会見の中で鄧小平氏は,突然「日本には不老長寿の薬があると聞いたことがある。今回、私が訪日した目的の一つは,正に不老長寿の薬を探しに来た。」と述べた上で、「つまり、日本の豊富な経験を学びに来ました。今回の訪日で何が現代化ということははっきり分かりました。」と言いました。この一言も,鄧小平氏の日本に対する友好的な感情,そして謙虚に学びたいとの気持ちが十分に表されていると思います。
4(問)先般、貴総領事は山東師範大学主催の「斉魯文化の継承と創造シンポジウム」において「儒教思想が日本文化に与えた影響」との講演をされました。「岡目八目」との言葉がありますが,儒教の伝統文化を継承していくことは,今日の山東省にとってどのような現実的かつ歴史的な意義があると考えますか。
(答)このシンポジウムで講演をすることについては、主催者側から約2ヶ月前に要請がありましたが,これを引き受けた後,若干後悔しました。と言いますのも,実は儒教思想については多少かじった程度で,専門的に研究したこともなかったからです。そのため,準備の段階では,ネットで関連の資料閲覧し,また,儒教関連の本も読み,さらに孔子に関する映画,テレビドラマ,アニメも見ました。講演を引き受けたことで,私自身も色々なことを学びました。儒教思想は既に2500年以上の歴史があるわけです。従って,まず,儒教思想の一部の内容は既に今日の社会には適用できないものがあることをはっきり認識すべきです。
その上で,例えば,儒教思想にある中庸思想は日本の歴史においても一定の役割を果たしました。中庸思想の核心は、プラスとマイナス面のバランス、あるいは権利と義務のバランス、個人の利益と社会の利益のバランスなどです。明治時代に渋澤栄一という著名な実業家がいました。彼は,幼い頃から儒教の教育を受け,後に「論語と算盤」と言う本を著しました。「論語」は,「仁義」「倫理」そして「道徳」などを代表し、「算盤」は当然のことながら,「商売」を代表しています。彼は自書の中で,「利」と「義」は調和すべき、調和できることを強調しました。彼のこうした考え方は,当時の資本主義の初級段階では広く受け入れられることはありませんでしたが,戦後,1960年代の高度成長期以降は再評価されて,彼の著書は日本の企業人の必読の古典となりました。
5(問)日本にとって山東省は中国における最も重要な協力パートナーの一つと言えますが,双方の経済交流及び文化交流の状況を紹介して下さい。
(答)日中両国間の経済交流は,時として,政治,経済状況の影響を受け,多少の起伏が生じることは避けがたいことですが,総じて言えば,日本と山東省との経済・貿易関係は相当の規模となっています。現在,山東省全体では,約1800社の日系企業が様々な経済活動を行っており,紡績、アパレル、食品加工分野の企業が多数を占めています。
この数年来,これらの伝統的な企業は対日輸出の面で困難に直面していますが,中国市場の開拓にも努力しています。2014年,日本と山東省との貿易総額は約280億ドルであり,毎年安定的に拡大しています。同年の投資額は約5億ドルで,近年は金額的には減少傾向にありますが,日本企業の投資は高い技術を有しています。私としては,今後,日本企業による山東省への投資が質的なレベルアップをしていくことを希望していますが,例えば,IT、医療、高齢者福祉などは有望な産業だと思います。
日本と山東省との間の文化交流は,様々なチャネルを通じて行われています。総領事館主催、友好都市間のイベント、民間ベースなど色々あります。最近、日本総領事館も共催して毎年11月に「青島ジャパンウィーク」を開催していますが,舞台での出し物の他,日本食品の販売なども行っており、好評を博しています。
2013年11月,日本の国際交流基金が済南に「日中ふれあいの場」を開設しました。これは山東師範大学本部の図書館に設置されているもので,定期的に様々な交流イベントを行っています。
6(問)日本と中国とは一衣帯水の隣国です。昨年から中国人の訪日観光客が増加していますが,両国の人的交流を図る上で、総領事としてはどのようなお仕事をされていますか。
(答)青島総領事館では昨年,約7.2万件のビザを発給しました。これは前年比で約50%増になりますが,そのうち,約60%が観光ビザです。因みに,昨年,日本を訪問した中国人は全体で約230万人となり,過去最高を記録しました。こうした勢いは本年も拡大しており,山東省も例外ではありません。今年の上半期には既に7.5万件となり,今後さらに増加する勢いです。
日本としては,皆さんの訪日,とりわけ観光訪問を歓迎します。日本は美しい島国であり,四季折々の自然の美しさが楽しめます。例えば,秋には素晴らしい紅葉が楽しめます。また,旅行は。,両国間の文化交流、国民同士の交流も促進することができます。
日本領事館としては,山東省の方々が訪日するに際して便宜を図るべく,ビザについても,関連法令及び規定の範囲内で出来るだけ柔軟な措置を講じています。例えば,現在,山東省では14社の指定旅行社がありますが,8月1日からはさらに5社を増やすことにしました。また,一定の条件を有する中国人の方については,できるだけ数次ビザを取得されることをお薦めしています。
7 今年は「抗戦勝利70周年」ですが,中国には「前事を忘れず、後事の師とする」との言葉があります。中日両国はどのようにして過去のわだかまりを解決し,東アジアひいては世界の文明を共同して作っていくべきでしょうか。
(答)戦争が残した傷跡は未だに深いものがあると思います。国と国との関係は人と人同士の関係にも似たところがあり,感情もあります。従って,まずは,お互いに相手の感情を傷つけるかもしれないことをなるべく言わない、しないという事に気をつけるべきです。
日中両国は一衣帯水の隣国です。「和すれば双方に利あり,争えば共に傷つく」との言葉は真理であると思います。両国の国民は,まず,この点を改めて認識し,その上で両国の未来を共に語るべきでしょう。日中両国は、経済面にせよ,文化面にせよ,ひいては政治面も含めて大きな協力の潜在性を有していると思います。とりわけ,山東省は,我が国にとって本当の意味での一衣帯水の関係にあり,交流と協力を強化していく意味は大きいと思います。この目的を達成するため,私自身も当地での在任中できる限りの努力を払いたいと思います。